石破政権が誕生して、公約の1つとして掲げる金融所得課税について大きな話題になってきている。この中でいくつか大きな誤解があるように見受けられる、
1、石破氏が提唱したものではなく何年も前から政府で議論がなされており、2025年分の所得から導入予定になっている
2、超富裕層向けの課税であり、株式売買を行う一般個人投資家の多くに影響はない
この点を先ず前提とした上で、幾つか考察していきたい。
1、導入の背景
金融庁はNISAの恒久化に動き、1800万円までの無税化を行なった。一方で財務省としては所得格差是正を問題視しており、金融庁の投資奨励策とは一見矛盾するかのような金融所得課税の導入に踏み切っている。
その所得格差こそが「1億円の壁」である。所得税制は高所得者がより大きな負担をすることを前提に設計されている。一方、現在の日本では一定所得金額を境に所得が増えても税負担率が上昇せず、むしろ下降してしまう。下図にあるように、1億円を超えると負担税率が下がってきているのが分かる。
この背景には、給与所得と金融所得の課税方式の違いがある。給与所得では累進課税で4,000万円の課税所得を超えると45%の最高税率が課される。一方、株式売買などの金融所得の税率は20%(15%+住民税5%)が一律適用されている。
富裕層の多くは、自分の資産の多くを株式等の金融資産に投資している。金融所得が増えることで結果として個人の負担税率が下がることが問題視されている。
なお海外でも少なからず同じ現象は見られるみたい。
「1億円の壁」に相当する現象は、日本のみならず、欧米の先進主要国でも見られます。例えば、所得税の最高税率が45%と日本と同じイギリス、フランス、ドイツの場合、金融所得に対する課税率はイギリスが最高20%、フランスが分離課税12.8%、ドイツが同26.375%(株式譲渡益の場合)と、税率こそ異なるものの、所得税に比べればかなり低く抑えられており、10%と20%の二段階のイギリスを除いて、税率は一律です。アメリカは0%、15%、20%の三段階で、香港、シンガポール、中国、台湾、韓国などの東アジア諸国は非課税が一般的です。
2、課税内容
ではどのような是正を行うか。
対象者は、年間合計所得金額が約30億円を超える納税者とされている。所得金額から特別控除額である3.3億円を引いた金額に22.5%を掛けた金額が、通常の所得税額を超えた場合、その差額分を申告納税する。
計算式としては、
(合計所得金額-3.3億円)×22.5%-通常の所得税額=追加納税額
合計所得金額とは「株式の譲渡所得のみならず、土地建物の譲渡所得や給与・事業所得、その他の各種所得を合算した金額」である。ここにはNISAの非課税所得は含まれない。
3、考察
金融所得課税の導入により、日本株の売買が減少するとの懸念の声がある。ただそもそも日本株売買の大宗は海外投資家が占めている。日本人の超富裕層による影響はさほど大きなものではないと言えるだろう。
また日本の超富裕層が税率の安い海外に逃げていってしまうと言う心配の声がある。しかし日本ではすでに、国外転出時課税制度がある。転出する際には1億円を超える金融資産について時価で課税がなされる。
税負担の公平性と言う観点から、金融所得課税の導入は考え方としては理にかなったものだと思っている。ただ気になるのは、金融所得を得た裏にはリスクを取ったと言う事実がある。うまくいった場合にのみ所得が得られるのであって、株式売買を例にとっても損失を出すケースも多々ある。この損失をどう考えるのか。現在の金融所得課税の計算は、所得が発生した場合にのみ課税する仕組みとなっている。損失を出したときの控除等については一切考慮がなされていない。金融所得はリスクと向き合った上での対価であり、そのリスク分として税率が低くあっても良いし、損失分の控除が出来たらなと思う。所得が出たからその分だけ都合よく富裕層向け追加税だとして課税されてしまうのは違和感が生じるところだ。